「お! いつものお嬢ちゃんじゃないか! 今日もおつかいかい? 偉いねぇ〜、もうすっかりおつかいのプロだ。こりゃあお母さんもさぞ鼻が高いことだろう! そんで、今日は何を買いに来たんだい?」
いつもお魚を売っているおじさんは、いつもえらいねってわたしのことをほめてくれる。
おじさんのお口の下には、おひげがボーボーにはえている。
まえにさわらせてもらったことがあったけど、思ったよりもかたくて気もちよくなかった。
どうせなら、サンタさんみたいなフサフサなおひげがいいなって言ったら、おじさんはさびしそうにわらっていた。
そのことをお母さんに言ったら、「とってもセンチ○△×□(←わすれちゃった)なことだから、つぎからはステキなおひげだねって言ってあげてね」って言われちゃった。
それからはいつもおひげのことをほめてあげてるの。
おじさんはほめられてうれしいし、わたしもほめられてうれしい。うぃんうぃん。
「はいはい! テッポウウオの尾を36枚ね。今日もそのクーラーボックスに入れればいいのかい?」
わたしは首をたてにふって、もってきた小さなクーラーボックスをおじさんに手わたした。
おじさんがお店のおくからもどってくるまでのあいだ、わたしはこおりのなかでピカピカ光ってるお魚たちをながめていた。
* * *
つぎに、わたしはクーラーボックスかた手にやおやさんにやってきた。
お店にはたくさんのおやさいがならんでいる。
でも、わたしはおやさいがあまりスキじゃないから、早くおかいものをおわらせたいっていつも思ってる。
きょうのお店にはおばさんが立っていた。
「あら、いらっしゃい! ん、今日はおじさんがいないのかって? そうだよ。今日の旦那はオフの日でね、老人会……こほん、仲間たちと釣りに行ってるんだよ。え、八百屋なのに魚を釣るのかって? あっはっは! 言われてみりゃあ確かに変な話だね! そうそう! このまえなんかねーー」
おはなしが長くなりそうな気がして、わたしはおばさんにかいたいものをつたえた。
「ああ、ごめんなさいね! ついついお喋りしたくなっちゃって……おばちゃんぐらいの歳になると、みんなお喋り好きになっちゃてね〜。はい、それじゃあお釣りと、冷えた長ネギ1本ね。いつもみたいに新聞紙に包んでおいたから、転ばないように気をつけて。また来てね!」
おばさんにおれいを言って、わたしはお店を出た。
おかいものぶくろからはみ出たネギが体に当たるのが気になるけど、わたしはなれっこだからだいじょうぶ。
これでおつかいのよていはあと一つ。
* * *
「いらっしゃいませ」
コックさんのカッコウをしたおねえさんのえがおにむかえられて、わたしはガラスのケースにとびついた。
ここはおいしそうなケーキがたくさんあって、おつかいコースの中でいちばんお気に入りのばしょ。
でも、おかねがないからたべることはできない。
だから、わたしは大きくなったらケーキやさんになるつもり。
それはしょうらいのたのしみにとっておいて、今はおつかいをしなきゃ。
「はい。シュークリーム4つですね。え? 皮固め? えーっと、少々お待ちください」
おねえさんがお店のおくに入っていったから、わたしはケーキを見つめながらまつことにした。
そして、たべたいケーキのランキングが3位まできまったところで、あのおねえさんがかえってきた。
その手にはケーキのはこをもっていた。
「あ~……お待たせしました♪ こちらご注文の品となります。お代はーー」
わたしはおかねをはらって、ケーキのはこをうけとった。
それをおかいものぶくろに入れると、さっきよりはふくろがもちやすくなった。
……ちょっとだけおもたいけど、わたしはだいじょうぶ。
いもうとのお手本になるようにって、いつもお母さんに言われてるから。
※ ※ ※
私がキッチンで夕飯の下ごしらえをしていると、我が家の玄関チャイムが鳴った。
「はーい! 今出ますよー!」
手に付着した水を拭ってから、私は玄関へと向かった。
玄関ドアのガラス越しに見えたシルエットは、見慣れた小さな背丈だった。
かかっていた鍵を外し、ドアを押しながら私は言う。
「お帰りなさい。今日も大丈夫だった?」
「だいじょうぶだった! はいこれ」
娘はニッコリと笑って、両手に持った荷物を差し出した。
「お疲れ様~。いつもありがとね」
「うん!」
私がクーラーボックスと買い物袋を受け取った直後には、娘は靴を脱いで廊下に上がっていた。
そして、一直線に洗面所へと向かう。
我が子ながら、実にきびきびとした動きだ。
「お母さん、きょうのごほうびおやつは〜?」
私は玄関の施錠をしながら、娘の質問に答えた。
「じゃがポックルよー」
「じゃがポックル? なにそれ?」
「北海道限定で売っている、お芋を使ったお菓子よ。お母さんのお友達から貰ったお土産」
「たべたことない!」
「それはそうよ。食べさせたことないもの。貴重品よ〜」
「おいしいの!?」
「どうかしらね~?」
そんな何気ない会話をしながら、私はおつかいの品々を自室へと運び込んだ。
* * *
肌から立ち昇る湯気が換気扇に吸われていく。
脱衣所で寝間着に腕を通すと、その温かさからか不思議な安心感に包まれた。
廊下に出た私は、自室に向かって歩く途中で、娘たちの部屋から明かりが漏れていないことに気が付いた。
部屋の扉をそっと開けると、暗闇に満ちた部屋の中で、愛娘二人がぐっすりと夢の世界に入っていた。
可愛い寝顔を覗き込もうかとも思ったけれど、それで起こしてしまうかもしれないと考えると、行動には移せなかった。
心の中でおやすみを告げてから、私は自室に向かった。
自室の扉についたダイヤル式の鍵を回して開錠すると、忍びのような素早い動きで入室して、扉を内側から施錠した。
手探りで照明のスイッチを押すと、天井のシーリングライトから放たれた光によって、室内はあっという間に明るくなった。
部屋の中央には正方形のガラステーブルがある。
その上には――
――36個の銃弾と、1丁のライフルと、4個のグレネードが鎮座していた。
私はベッドに腰をかけ、それらを一つ一つ確認していく。
「――うん。いつもどおり問題ない。我が子もすっかりベテランだね」
そう呟いたときには、すべての確認作業を終えていた。
「……そろそろ妹
ライトから降り注ぐ光を浴びたライフルが、私の視線を意識したように鈍い光を返して見せた。
not continue……
【お買“いも”の】で必要条件は満たしていたのですが……書き終えた瞬間に、何故かじゃがポックルのことが頭をよぎり、つい耐えきれずにぶち込んでしまいました。
ポテトチップスはパリパリとしたお菓子ですが、じゃがポックルはモグモグって感じでとても
…結局、食べ物の方のイモの話もしてしまいましたね。
ちなみに、私が焼き芋の皮が苦手なことは、ここだけの秘密です!
以上、『わたしのシゴトはおかいもの』でした。
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